農家のヨメのプレゼンテーション

佐賀で開かれた九州経済同友会の大会から1週間が経ちました。その間も、毎日いろんなことが起きて、たくさんの人に来て頂いていますが、皆さんから「社長さんたちの前でどんな話をしたの?」と聞かれるので、別にたいした話をしたわけではないのですが、秋の夜長に、私の10分ほどのプレゼンの内容をご紹介しようと思います。間で笑いをとれるようなことを言ったり、ちょっとした余談も話していますが、そこはカット。骨子だけですが、ご興味のある方だけお読みください。


演題。


まずは自己紹介から。


ドイツ生まれの東京育ち。大学の同級生だった夫に一目惚れして、釣り糸を垂らしておいたら簡単に釣れてしまいました。ちょうど体調を崩して判断力が弱っていたことを夫は後悔しているようです(笑)その時は、彼が農家の跡取りだなんてもちろん知りませんでした。私の両親は共に江戸っ子で、農業とは縁のないところで育ちました。

卒業後、結婚してから二人でドイツの大学院に進学しました。帰国後、いったん東京で仕事を見つけますが、大都会で暮らすうちに、夫が目に見えて弱ってきたので、これはいかん、と。どうせいつか農場を継がなければいけない身なのであれば、早いうちからはじめよう、と言って、夫を引きずるようにして阿蘇に移り、叔父の下で就農しました。



先祖代々続く農場で見習いからはじめ、O2Farm(オーツーファーム)という屋号をつけてから10年が経ちます。いまでは、5ヘクタール近くの田んぼで農薬を使わずにお米を作り、一緒に経営している叔父が阿蘇特産のあか牛の飼育を再開しました。



できたお米は全国のお客様に直接お届けし、あか牛は生後10か月でセリに出します。いずれは大人になるまで草原で伸び伸びと育て、それを肉として出荷したいと思っています。


農業をはじめて11年目。いまだに、「豊かな暮らしだなぁ」と毎日のように思って過ごしています。私も夫も環境情報学という勉強をしましたので、こういう豊かさは、どんなに良くても、それを伝えないと価値を理解してもらえないものだ、ということを就農当初から意識しており、最初から情報発信はマメにしていました。



情報発信を続けているうちに、様々なメディアが取り上げてくれるようになりました。最初は自分から発信していましたが、今では、雑誌やテレビが私たちの代わりに発信してくれます。継続は力なりと言うのは本当ですね。



田舎暮らしや農業の楽しさにつながる情報を出し続けているうちに、「英語がしゃべれるなら、それを世界にアピールしてくれ」という事で、今年の5月に阿蘇が世界農業遺産というものに認定された時、その準備段階でローマや石川に行って、農業者として発表をさせて頂きました。私がこのような場違いな所(経済同友会)に呼んで頂いているのも、ローカルの魅力を世界、つまりグローバルにアピールしたという活動がきっかけだったのではないかと思っています。




どんなにグローバル、グローバルと言っても、その根底にローカルがあるからこそのグローバルではないでしょうか。



そしてそのローカルなところで生産される農産物は、大きな資源です。



また、生産する過程で形作られる風景もまた資源です。



特に阿蘇の場合は、雄大な草原を含む景色そのものが最大の観光資源。



貴重な生態系を育む日本で最大の草原が、世界的にその価値を認めていただいたわけなんですが、それを維持しているのがローカルな力です。草原の場合は野焼きと呼ばれる危険な火入れ作業、そして多くの農村地帯で今も地域住民によって維持管理されている水路、さらにそう言った地域のつながりを支える祭り…。


ところが、こうしたローカルな活動が、少子高齢化によって続けていくのが困難になりつつあります。



そのような中、熊本では、ローカルな地域を応援する取り組みがいくつも実現しています。野焼きボランティアをはじめ、草原再生基金や定期預金、クオカードなども。こうした下流の都市住民が、自分たちの身を守るためにも上流の農村を応援するためにお金や労働力を提供する、という姿は、今後、成長カーブがいつか緩やかになるであろうアジアの諸地域にとって、具体的なモデルとなっていくはずです。



また、いったん「地方」というくくりで見放されていたローカルの魅力が再評価される中で、都会からの移住者が全国的に増えています。南阿蘇村は、全国で唯一、人口が増加している村だそうです。その移住者たちが、自分たちはここが好きで移り住んできたのだから、何とかしてここの良さを維持していくために貢献したいと思っているのです。

先月、「世界農業遺産マルシェ」というものが南阿蘇で開催されたのですが、これは、発案から実施まで、ほとんど全てが移住者の方たちによって行われました。六本木で開かれても見劣りしないような、素晴らしくお洒落なマルシェで、都会の感覚を活かした移住者による取組みは、農村に新たな風を吹かせてくれました。



今回の大会で、「グローバル市場を開拓する工夫」という論点が挙げられています。それは、域内消費を上げることだと私は思っています。

ドイツのワインはとっても美味しいのに、日本には甘いものしか入ってこない。でも、現地のローカルな飲み屋さんでは出てくるのです。いいものを地元で消費し、地元、つまりローカルな魅力が高まり、国内外から人が集まってくる。その人たちがどんどんSNSなどを利用して発信してくれたら、さらに人が集まる。

ですから、今日の私からのメッセージは「たとえ急がば回れでも、内なる魅力(=ローカリティー)を上げることが、グローバル市場につなげる」、ということです。


子供たちがこんなカッコで、こんなに泥んこになって遊べるのも、土や水や空気がきれいだからこそ。きれいな土や水や空気は農村にたくさんある資源です。美しい風景も資源です。そして、未来を担う子供たちも。ぜひこれらを守り、磨いていくために、皆さんにも様々な形でご協力頂ければと願ってやみません。

ご清聴、ありがとうございました。



…発表は以上です…