阿蘇を世界農業遺産に!

野良仕事が減った分、最近、会議やら何やらが多くなりました。
それにしても、最近受ける仕事の種類が多くて、自分の仕事が何なのかよく分からない(苦笑)。
と、いうわけで、自分の頭の整理も兼ねて、最近わたしが関わっていることをまとめてみました。
割いている時間の多い順に、
1.南阿蘇再生可能エネルギーバイオマス発電)を導入を目指すための協議会運営
2.世界農業遺産をめざす取り組み
3.「農業もいいじゃん」と思ってもらうための様々なアピール(雑誌や新聞、FB、ブログなど)
といった具合でしょうか。


もちろん、減ってきたとはいえ農作業もあるし、主婦でもあるし(家族5人の食事と洗濯!)、母でもあるし。
ちょっとやりすぎだなぁ、と思う一方で、これが働き盛りってやつなのかなぁ、と思ったり。
先日、三男に「最近お母さんと遊んでいない」と言われてからは、たとえ短時間でも
彼と1対1で向き合う時間をつくるようにしています。ずーっと相手をする訳じゃなくても、
「お母さんと遊んだ」と思ってもらえるみたいで、なかなか快調です。


ところで、昨日は2番目に力を入れている、阿蘇を世界農業遺産に!という取り組みのシンポジウムでした。
とても濃密な内容でしたので、少し長くなるかもしれませんが、今日も雨なので、記録代わりに報告します。
斜め読みでもいいので目を通していただければ幸いです。

世界農業遺産(略称ジアス=GIAHS)というのは、「Globally Important Agricultural Heritage Systems」の略称で、後世に残すべき生物多様性保全している農業上の土地利用方式や景観について、FAO(国連食糧農業機関)が認定するもので、「システム」というのが後についているのが特徴です。つまり、これは単なる「遺産」ではないということ。世界文化遺産とか、世界遺産とか、これまでの歴史によってできてきたモノや景観そのものを「遺産」として登録する制度の方が有名ですが、GIAHSは、システムを認証するのですから、これからも続いていかなければならない、というのがポイント。それにしても、世界農業遺産なんて、聞いたことない方がほとんどではないでしょうか。かくいう私も、ほんの数ヶ月前は存在さえしりませんでした。


この「世界農業遺産」という制度を熊本に紹介したのは、熊本市内で人気のイタリアンレストラン、「リストランテミヤモト」の宮本さん。同世代なんだけど、この人のバイタリティはちょっとありえないくらいスゴイ。あっちにいたりこっちにいたりするくせに、料理はちゃんとご自分で作る。コピーロボットがいるんじゃないかと疑いたくなるほどの動き回りっぷりなんです。宮本さんはイタリアで8年間過ごされた後、料理人として熊本の食材の豊かさを再発見。熊本産の野菜や、熊本の伝統的な「肥後野菜」を積極的に取り入れた季節のメニューが話題となって、お店は一躍有名に。店で使う野菜は、畑を見に行ってから直接農家と取引きして、顔が見えるどころか、何でも見えてきそうなくらい濃いおつきあいをしているからスゴイ。TPP問題や農家の高齢化で、これからの農業がどうなっていくか分からない中、農業や農村の維持は農家だけで解決しなきゃいけない問題じゃない!というアツイ思いで、様々な取り組みをされている中で、たまたまテレビのニュースで世界農業遺産のことを知ったのだそうです。知ったからにはぜひ目指したい。でも一人でつぶやいていても実現しない。ということで、地元の新聞社が主催した公募論文に応募。見事、優秀賞を獲得し、「世界農業遺産」という名前が熊本県で知られるきっかけとなりました。県内で「世界」に通用できそうなのは、世界最大級のカルデラの中で営まれてきた農業が1000年以上の歴史を持つ阿蘇だろう、ということで、8月当たりから阿蘇に的を絞って登録を目指して動き始めたところです。民間人が言いだしっぺとなって登録を目指すのは初めてのことだそうで、窓口となっている国連大学もとても好意的に見てくださっています。


その宮本さんが、シンポジウムの基調講演として「世界農業遺産とはなんぞや」というお話を30分ほどされました。普段1時間かけて話している内容を30分で話したので、本人は言い足りなかったようですが、聞いてる側としてはエッセンスが詰まっていて、けっこうよかった。宮本さんには失礼ですかね(笑)。


私が宮本さんと知り合ったのはほんの5ヶ月ほど前。阿蘇で農業をやっている景観にうるさい夫婦、ということで、共通の友人を介して我が家に遊びに来てくれました。「農業を続けることで阿蘇の景色を守りたい!」という思いで農業をはじめた私たち夫婦にとって、はじめて宮本さんに話を聞いたときから、「おぉ、これはいいね!」ということで意気投合し、やれることはやるつもりで今に至っています。私の祖父がFAOで働いていたと言うのも何か運命を感じるものがあって・・・。
そんなご縁から、昨日はパネリストとして登壇させていただきました。あんまりシンポジウムって好きじゃないんですが、GIAHSがテーマなら喜んで。私がGIAHSに期待するのは、ブランド化とか観光資源とかではなく、まずは農家が誇りを持つようになる、ということ。世界が認めるような阿蘇の景観や生態系や文化。その8〜9割は、私たち農家が農業をすることで作られているんです。その事を、私たち農家自身がもっと自覚をもって、もしこれから先、自分たちだけで守っていけそうにないのであれば、どこまではできるとか、どういうサポートがあれば農家の人数が減っても続けられるとか、そういう具体的な対策案を自ら考えていくことが何よりも大切なんじゃないかと思っています。そのきっかけにGIAHSがなってくれればいいな、と。

一緒にパネリストをしたのは、全国最年少(38歳)の小野副知事と、やはり同世代のエコノミスト。それぞれ行政と経済人という立場から、どのようなことを思い、どのようなことをしてきたいかというお話をされました。お二人とも、阿蘇に限らず熊本は誇れるような素材をたくさん持っているのだから、それを活かしていくにはもっとやるべきことがたくさんある、というご意見でした。県外出身だけど、熊本大好き!というのも共通しているようでした。これは私も一緒ですね。


FAOに申請はするものの、本当にGIAHSに認定されるかは分かりません。でも、せっかく宮本さんが蒔いてくれた種から元気に芽が出て双葉が出たくらいの盛り上がりになってきているので、これが本葉となり、ツルを伸ばして成長していけるよう、それぞれの立場でできることからやっていきたいです。認定されたとしても、それが終わりではなくむしろスタートなので、ながーく続けられるよう、しっかりした根をつくることが今は大事なのかも知れません。今夏の水害で大きな被害を受けた阿蘇がまた元気を取り戻すためにも、GIAHSが一役かってくれると期待してやみません。参加してくれた皆さんも、関心を持ってくださっている皆さんも、今後ともよろしくお願いしまーす!写真の真ん中が宮本シェフ、左が小野副知事。私の右側にいるのは、農水省から熊本県に出向しているGENちゃん。彼が現在、申請書類をせっせと書いているんだそうです。がんばって〜!

農業をはじめて丸10年。農家としてはまだまだ未熟者ですが、この10年で感じたことや考えたことを活かして、少しは人様のお役に立てるような事もしていきたいし、それができる機会も頂き始めているので、まぁ引き続き試行錯誤しながらではありますが、次の10年に向けて活動の幅を広げつつあるところでございます。夫は夫で、温めている「何か」がある・・・みたいです。もともと「阿蘇の景観を守りたいから農業をする」と言い出したのは彼の方。農業については全くの素人だったので、「最初の10年は農家になることが目標」と腹をくくってここまで来ましたが、その目標は達成していると言ってよさそうなので、彼の今後にも乞うご期待!・・・なんて勝手なことを書いているとまた怒られそうですが(笑)。