ジレンマを抱えながらも前進・・・

大きさも形も不揃いの田畑が織り成すこの風景と生態系をそのまま次世代に残すという夢は、叶う見込みがなくなりました。現時点では。決して誰かのせいなんじゃなく、いろんな人が精一杯努力した結果、それでも叶わなかっただけなんです。


どこにでもあるような四角い田畑ばかりになるけど、形が悪いせいで耕作放棄地になるよりはよっぽどいいだろうし、コンクリートU字溝になっても、生命力の強い動植物は半年もしないで戻ってくるでしょう。たとえホタルやゲンゴロウが姿を消したって、田畑そのものがなくなるわけじゃないし、シンボルの天神さんだって残る。だから私もここに残る。


地方創生って言ったって、お役人さんや外から来た私のような住人は、アイディアや枠組みを用意することができるだけ。最終的な決定権や土地の権利は、特に農村ではご高齢の方が持っているケースがほとんどで、彼らはこれまで、彼らなりの精一杯を尽くして地方を守り支えてきた立役者。努力を重ねながら長年かけてできた価値観は、 社会状況や政権が変わったところで、 そんなに簡単に変わるもんじゃない。戦後70年たって「里山資本主義」が流行り言葉になっても、70年かけて追い続けてきた「経済性・効率性重視の競争社会」が急に姿も消すはずもない。

そんなことは最初から分かっていたけど、でも何とかしたかった。日本昔話に出てくるような風景を残しながらも、最先端の技術を使って地元の人の作業負担が軽くなるような、そんな整備事業を目指したかった。子供たちにも「ホタルを残して!」と言われ続けていました。でも、ごめんね。「お母さんが何とかしてみせる」って豪語してたのに、約束守れないかもしれないや…


これから計画する事業には、里山や何気ない田舎の風景を残すような視点が入って欲しいし、まぁそういう流れになっていくことでしょう。でも残念ながら、私の集落では間に合いませんでした。既に出来あがっていた計画を見直してまでその視点を入れ込むことができなかったのです。頭を切り替えて、工事が終わった後にどうすれば美しくて動植物の豊かな場所にしていけるかを考えていきます。本格的な春が南阿蘇にもやって来たら、この形の田んぼで作る最後の様子をジャンジャンお伝えするつもりですので、お楽しみにo(^-^)o その思いを朝日新聞連載の最終回にも書きました。


生きていれば、いろんなジレンマがあります。でもそれでも生きてさえいれば、「よしっ!」と思うこともたくさんあります。もちろん「あ〜ぁ」と思うことも。今は正直、「あ〜ぁ」と思っている訳ですが、それでも次々に起こる面白い出来事やたくさんの出会いに支えられて、前進していこうと思います。