「地方」からの発信

数日前、石破茂地方創生大臣が呼びかけた「そうだ、地方で暮らそう!」国民会議に参加させて頂きました。全国区のニュースでも報道されたようで、ご覧になった方もいるかもしれません。たった1時間でしたが濃厚な会議でしたので、長くなりますがご報告します。


議長は日本商工会議所会頭の三村明夫氏。物腰の柔らかい、温かい笑顔の方でした。冒頭の挨拶で、「政府も本気で取り組みますが、国民運動として盛り上げていかないことには地方の創生は実現しません」と石破茂地方創生大臣。


東京の一極集中や地方の人口減少に目が行き始めたのは20年以上前のこと。でも先送りにしてきた。既に手遅れ気味なのかもしれないが、起死回生を目指さないことには、この国の未来が本当にない。そんな中、地方の価値を上げて人口や産業を回復させようという取り組みを既に各地で続けてきた人たちが会議に呼ばれたようです。参加者は22名。随行者1名が認められており、私は母を連れて行きました。



そのうち公式に発表されるようですが、参加者の方から出たご意見で印象的だったものをご紹介します。総論としては「行動あるのみ」と、「簡単にできるくらいならとっくにどこもやっている。簡単じゃないからここまできてる」というポジティブとネガティブな2つの意見でした。その上で、JR東日本代表取締役社長さんからは「地方に住んでいても、時々東京に行くことが簡単になるような格安プランをつくっていきたい」とか、鳥取で幼児教育に取り組んでいる女性からは「田舎には子育てに必要なものが全てある。田舎にいると、2人目3人目が欲しくなる。だから田舎にこそ教育の機会と安全に産める場所をつくりたい」とか。それぞれの立場から具体的な提案が続々と出ました。

私は、東京育ちでいわゆる「いい大学」を出た上で農業を選び、家族との時間を多く取りながら四季の変化を感じる今の暮らしに大満足していることをお伝えした上で、「景観」とか「生物多様性」と言った、個人や「点」の取り組みでは守り切れないものについては、トップダウンで政府がしっかり方針を決めて守って欲しい旨を訴えました。会議中は写真が撮れませんでしたが、友人が制作してくれたこんなポスターを携えて行きました。短い持ち時間で、伝えたいことを効果的に伝えるためには、見てもらうことが一番だと考えたからです。



この発言に対して、古民家再生の第一人者であるアレックス・カー氏が援護射撃をしてくれました。先進国における地方の衰退は世界共通の問題であること、その中で、イタリアのトスカーナ地方とかフランスのプロヴァンス地方は、過疎化に直面しながらも「田舎の景観」を積極的に守ったことで世界的に有名になり、国内外から多くの来訪者・移住者がやってくる場所になったことをお話しして下さりました。日本の田舎は非常に美しい。でも住んでいる人にとっては当たり前の風景であって、それを守るよりは利便性を求めるのはある意味当然で、それに対する規制がなかったために景観や生態系を壊すような公共工事が続いてきた。都会から田舎に移りたい人は、美しい農村景観に惹かれているのだから、その期待に応えるような景観を政策としてつくっていくべきた、と。

泣きそうでした。正にそういうことなのです。不便なままでいいなんて思っていない。でも便利にさえなればすべてが解決するわけでもない。周囲の景観や環境をなるべく壊さないように利便性を上げることが、「田舎の未来」につながると思うのです。会議終了後、カーさんからご著書を頂きました。


会議の中でもう1つ、空き家再生も大事だけど、空き家にならないよう、既存の住宅をリフォームしてエネルギー効率を高めたり、年をとっても住みやすい家にしする対策にも取り組んで頂きたいとも発言したのですが、その時に三村議長が母に意見を求めて下さったので、バリアフリー建築士として、介護施設だけでは足りなくなるから、いかに自宅で長く住み続けられるようにするかが重要、と母。東京と阿蘇を行ったり来たりしている二拠点居住の実践者でもある母の、重みのある発言でした。随行者で発言を求められたのは彼女だけでした。

他にも多くの「素晴らしい!」と思うご意見が出たのですが、そろそろ農作業に戻りたいのでこの日の出来事についてはこの辺で。


私が都会に出向いて行って「発信」することもあれば、来て頂いて発信することもあります。昨日と一昨日は、慶應大学の大学院生さんたちが南阿蘇にやってきました。「環境科学技術・政策持論」という授業の一環で、阿蘇では生態系サービス(自然の恵み)とそれを支える人々の営みを学ぶのだそう。 留学生たちの割合が多いコースで、 授業はすべて英語。少し無理を言って、息子たちが通う両併小学校の教室をお借りし、私が英語で講義をしました。その模様は神奈川と東京のキャンパスにも配信。子供たちにも少し参加してもらいました。

片田舎からでも東京や世界に発信できるということを体感してほしかったのと、英語が飛び交う様子を見てほしくて、敢えて小学校を選びました。その甲斐あって、子供たちは目をパチクリさせながら、自分たちが普段使っている教室に海外からの学生さんたちが来て、英語で授業を受けている様子を見ていました。ちょっとでも彼らの世界を広げることに貢献できたら本望です。


翌日は田畑や放牧場にご案内しました。初めて日本の農村に来た、と言うヨルダン、イラン、中国からの留学生さんは興味津々。農業に興味があって、学部生だけどついて来たという日本人の学生さんや、慶應なんて行ってるのに、専門は「チョウチョとトンボです」という院生さんも、目をキラキラさせて楽しそう。生態学や景観が専門の一ノ瀬先生にところどころ補足して頂きながら、普段の授業とは違う勉強をしてもらいました♪


微力ながら今後も地方からの発信に努めていきたいと思います。